ファミリーの1歩先には親子スタイル

天童荒太「家族狩り」

天童荒太、今年の直木賞作家である。
まあ、自分はこういう流行りものはあまり読まないのだが、妻が面白いから読んでみてよ。というので読んでみた次第である。

子供の不登校・自殺・売春・薬物・親に対する暴力、いじめ、児童虐待、精神異常、などなど、様々な家族の崩壊が描かれる。文庫本で全5巻、原稿用紙2200枚以上という超大作。
欺瞞、偽善を直視し続ける、登場人物たちの言動や行動原理などによって、全編が眩暈にも似た重苦しい世界感に覆われた小説である。
これだけのテーマを余すところなく表現するために、この枚数は決して多くはない。
超大作にもかかわらず隙のない構成、ドラマティックなストーリー。実に面白くあっという間に読了した。

子育てについて深く考えさせられる小説である。
衝撃を受けたと言ってもいい。

主人公はさえない美術教師。
生徒が非行に陥らないよう繁華街のパトロールをしなくてはならないのだが、確信犯的にサボっている。それを恋人からとがめられて、言い放つ言葉がある。

アフリカのシエラレオネでは日々子供が戦闘で殺されている、それらの子供に対して何もしてやりもせず、非行に走るっていうことを取り締まるってことに何の意味がある。

というようなことをうそぶくわけである。こんなことを年がら年中考えていたら気が変になりそうである。

この主人公の生い立ちがまたまたふるっている。
両親が徹底したエコロジストであり、国際的な貧富の差をいつも考えている人物。
贅沢というものを一切拒否して子供にもそれを強制している。修学旅行には行かさない、給食も食わせないというぐあい。
かといって、農業で自給自足するということも、環境に対する負荷が高いと主張する。発展途上国で生産された製品をささやかに買って、消費するということで途上国の人の生活に少し貢献することが最も罪が少ないとしているわけだ。

こんな息苦しい生活を子供に強いることをかわいそうだと非難すると、「うちの子供を堕落させるな!」というようなことを言うわけだ。

子供に倫理観を与えるのは親の役目だ。
そのため、これは何が間違っているのか?と言われると非常に難しい。あと、10年ぐらいしたらこの両親のような態度が世界でも普通になるかもしれないし。このあたりは深く考え込んでしまった。

この問題を少々拡張して考えると、宗教の問題に突き当たる。特定の宗教を信仰していなければ地獄に落ちると親が信じている場合、子供にその宗教を押し付けないことは親の立場から考えれば悪そのものである。
例えばとある宗教の場合、子供に輸血をしないと死んでしまうことはわかっていても、それが故に永遠の命を得られないのであれば輸血をしてはいけないという結論になる。
ほんのあと何十年か生きるためだけに輸血を行い、それが故に永遠の生を得られないというのは子供の利益にならないという主張は、宗教の教義が正しいならば、正しい。
死後の世界から蘇ってきた人は誰一人としていないので、この主張に対して100%誤りだと言い切れないのである。

倫理は何が正しく、何が間違いか答えがない。言い換えればどれも正しいというのが正解であろう。
親はどのような倫理を子供に教えるのか?親の責任は重いことを改めて思った。

あと、この小説の中では様々な崩壊家庭が描かれるが、その崩壊家庭は決して設定がとっぴなものではない。
どこにでもあるような普通の家庭や、厳しい倫理観を持って生きている家庭が崩壊しているのである。崩壊の過程が実にリアルで、家族の崩壊はすぐ隣にあるということに背筋が寒くなる。

しかしながら、この小説は成長の物語でもあって、作中の人物が出来事を通じて精神的に成長することが一つのテーマになっている。
これ以上書くと、小説のねたを明かすことになってしまうので避けるが、考えさせられるし、子供に正面から向き合うことの大切さを思い出させるし、面白く、スリリングである。お勧めである。

親子スタイルアドバイス
■お勧めの対象 思春期のお子さんをお持ちの親御さん
■コメント 家族のありようについて実に考えさせられる小説です。お勧め
※当サイトのコラムはスタッフ個々の私的な見解及び文責にて公開されております。
ポチッと一票↓↓↓お願いします
人気ブログランキングへ にほんブログ村 子育てブログ 第2次反
抗期(思春期)へ
  • 天童荒太 直木賞 家族狩り 思春期 書評
[お勧めの本, 田村 義隆]
(2009年03月09日 22:40) 個別ページ
カテゴリ一覧