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今月のktkr本 『脱「ひとり勝ち」文明論』

こんにちは、巻尾です。
 民主党政権になり、温暖化防止が具体的になったり、子育て支援が現実味を帯びてきたり、世の中が少しだけ変わっていきそうな予感がします。本の世界も、不況、金融破綻、格差など、今いかにひどい状況かということを訴えたり、その状況から脱するために、意識を変えてうまく生き抜こう、といった自己啓発の本ばかりが売れるという状況から、そろそろ脱するのでは、と期待しています。
 今月は、そんな明るい方向への変化を感じさせてくれる本、『脱「ひとり勝ち」文明論』です。この本は、太陽電池と電気自動車の開発を行っている科学技術者による、新しい考え方の提案書、といった内容ですが、読みはじめて、いっぺんでとりこになってしまったのが、このフレーズです。

「危機をあおり立てる情報には、もう、飽きてしまいました……」


心の中で密かに思っていたことを代弁してくれてありがとう、と快哉しました。本当に、将来の不安ばかり聞かされるのは、正直ウンザリですからね。
 もちろん本書は、危機をあおるのに飽きた、とぼやく本ではありません。技術者である著者の清水浩さんは、世界がダメになっていくのは、先進国のごくわずかな人々のためだった技術にしがみついているからだ、と説きます。この「ひとり勝ち」の技術を脱して、太陽電池と電気自動車を普及させることで、世界中の70億人の人たちも、20世紀のアメリカ人と同じように裕福な生活が実現できる、すなわち新しい文明社会が誕生する、というのです。

 なんだか遠い未来に向けての理想論、のように見えるが、これが実に論理的、現実的で、非常にすんなり受入れられる主張です。
 太陽電池はまだ総発電量の一万分の一に過ぎないけれど、それを千分の一にするのはマーケットの余地があるから簡単、生産量を10倍にすれば、モノの価格は半額になり、太陽電池の設置価格が四分の一までいけば、原子力や火力発電よりも、原価が安くなるから一挙に普及、そして地表面積の1.5%に太陽電池パネルを貼ると、70億人がアメリカ人と同じだけエネルギーを使えるようになるそうです。
 「古い技術から新しい技術に変化するのは、わずか7年」「生き残る技術は、ひとつ」「効率のいい技術は、必ず普及する」など、言われてみれば納得ですが、それを新しい技術の獲得と、脱「ひとり勝ち」という発想に結びつけたのは、技術者ならではなのでしょうが、ひとつひとつ発見があります。
 
 清水さんは、30年間研究を続け、最高速度時速370キロ、なのに排気ガスはゼロ、という電気自動車「エリーカ」を開発しました。研究の場でも、ひとり勝ちをめざすのではなく、「みんながやろうとしないが、やろうとしさえすれば必ず成果は出るだろう」という次元で戦った、といいます。概念を作って計算し、コンピュータでシミュレーションを作り、実際に作る。偶然やひらめきを待つのではないから失敗もない。はじめから競争のためではない開発、というものにも、ある種のカタルシスを覚えました。

 清水さんが講演で高校生に、「これから世の中は良くなるか、ダメになるか」と聞いたら、「良くなる」が3割、7割が「ダメになる」と答えたそうです。それが、講義の終わりに同じ質問をしたら、「良くなる」が一挙に9割に増えたとそうです。そのアクションを高校生たちに起こさせるものを、大人の私も本書で感じました。
 語り下ろしのやわらかい文体、イラストもたくさん入り、中学生くらいからなら読める内容です。将来に希望が持てない、理科や科学はなんのためにやるの、と思っている子どもたちに読んでもらいたい1冊です。

(文・神谷巻尾)

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