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再読『ブンとフン』

 はるか昔になりますが、中学生の頃初めて読んだ文庫本が、井上ひさし『ブンとフン 』でした。大きい版型の児童書ではなく、字もサイズも小振りな文庫本は、一挙に大人っぽくなれた気がして、得意な気分になったのを思い出します。


 井上ひさしさんの訃報を聞いて、まず甦ったのが、その文庫本の記憶でした。大きなペン先と原稿用紙に、小さな人がわらわらと湧いてきている表紙も、頭に思い浮かびます。確か部屋の本棚に、星新一とか、アガサ・クリスティとか、エラリー・クイーンとかと一緒に並んでいたんだろうな、など、中学時代の自分に戻っていくような感覚を覚えました。

 とはいえ、あの頃『ブンとフン』をどう読んでいたのかは、あまり覚えていないのですね。正直、内容もおぼろげです。いや、あんなに鮮明な記憶があるんだから、相当面白かったに違いない。これは今読むしかない、と30年ぶり?に再読してみることにしました。

 書店で手に取った文庫本は当時と同じ表紙で、まず感激。懐かしい?、そうそう、貧乏な作家ブン先生がいて、小説から飛び出した大泥棒フンがいたずらし放題で、としばらくノスタルジーに浸っていましたが。読み進めるうちに、昔の中学生ではなく、今の自分が小説に引き込まれていました。
 奇想天外な設定、たたみかけるダジャレ、筆の赴くままに描いて疾走し飽きたら終了、みたいな斬新な展開。最高にナンセンスで、風刺もあり、意外性もあるけれど、物語が成り立って、破綻もしていない。登場人物は、適役も含め、憎めないキャラクター揃い。でも、あれ?これって、もしや、すごく質のいい児童書の面白さなのでは? と思い至りました。あとがきを読んでみると、著者自ら「この、児童読物とも、テレビの台本とも、ひっくり返したおもちゃ箱ともつかぬ騒々しい作物」と表現していて、そうか、あの頃あんなに気に入っていたのは、自分が子どもの本の世界にまだいたからなんだな、と思ったのでした。

 そしてその「児童読物」的なこのお話に、大人になった今でも入り込めることが、結構うれしかったりします。中学生の、もう少ししたら子どもの本なんて読まなくなる年頃で、この本と出会っていてよかったな。自分が子ども時代に読んだ本を子どもに勧めることはそれほどないのですが、これは共有できそうな気がします。
 井上ひさしさんに、感謝です。

(文・神谷巻尾)

 

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