ファミリーの1歩先には親子スタイル

就活小説『ワタクシハ』

 最近親子スタイルでも「就活」が話題になっていますね。今年1月に出た『ワタクシハ』は、ズバリ就活小説。何かの番組で著者が登場していて、実際の就職活動をもとに書き下ろしたと聞き、読んでみました。
 著者の羽田圭介氏は、高校2年、17歳のときに『黒冷水』で文藝賞を受賞した若手の作家。兄弟間の陰湿な確執を描いた受賞作は、若者のドロドロした闇の部分の描写が秀逸でした。


主人公太郎は、高校生のときにテレビ番組のオーディションを勝ち抜きギタリストとしてデビュー、バンドは武道館ライブ、紅白出場するほどの人気になるもやがて解散。再デビューの夢を断ち切りがたくギターの練習を続けていたが、大学3年の秋、周囲に影響されて就職活動を始めた。元有名人だから簡単に内定を取れると思っていたが、待っていたのは厳しい現実だった。このストーリーは、付属校時代に文学賞を受賞して脚光を浴び、大学に進学してからも作品は発表していたが、さほど目立たなくなった、という作者自身を投影しているようです。
 それにしても、この小説の太郎は、シューカツ戦線においてもかなり有利なポジションにいるのでは? と、素人は思ってしまいます。中高一貫校から内部進学で有名私大に進み、デビュー後も毎日のギター練習を欠かさない努力家だし、一人暮らしで節約しながら自炊し、彼女もいるし、サークルやゼミの友人も大勢いる。育ちがよくて優秀で、生活力もあって、こんな子に育ったらいいなあ、とつい親目線(笑)。
 しかし、「バンド名を言っただけで騒がれるんだから、有名人枠で簡単に決まるのでは」と思う妙な自信と脇の甘さは、やはりゆとり世代なのでしょうか。就活生たちの情報交換や、独特の必勝法らしきもの(タイトルの「わたくしは」もそれですね)、あるいは今どきの会社説明会や面接の様子など、今どきのシューカツの実態が面白いというか凄まじいというか。受ける学も、受入れる側の企業も、何か尋常ではない、変な空気が流れているようです。

 なんの準備もなく行き始めたテレビ局や広告代理店で当然落とされ、やがて就職サイトに登録し、業種を問わずエントリーシートを出しまくる太郎。そのうち一次、二次面接くらいまで進めるようになると「やっぱり俺、特別」と気をよくし、しかし結局落とされ続ける、というくり返しの日々のなかに現れる就活生たちのいらだちや不安が、またリアル。アナウンサーを熱望して、スクールに通い完璧に準備する彼女、高校で首席だった友人、「上下関係は大丈夫」と自信を持つ体育会系、ウェブで話題の就活ブロガー、情報通のサークル仲間など、ことごとく決まらないという現実に少しずつ壊れている様子、これも現実なのでしょうか。
 一方、うだつが上がらなくてどこも受かるわけないと思われていた友人高木は、仲間に先立ち大手企業何社からも内定を得て、回りは愕然とします。高木は自分なりの戦略で成功し、「情報なんてゴミだ」と情報収集に躍起になる仲間を痛烈に批判します。ここが最も印象的で核心をついているのでは、と感じたシーン。作者自身の、就活に対する批評なのではないか、と思いました。

(文・神谷巻尾)

 

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