ファミリーの1歩先には親子スタイル

夏休み読書コミュニケーション~昔の不良を知る~

師範学校を出て軍人になり、戦後、再び教員に戻った母方の祖父は教職という仕事に誇りがありましたが、それだけに、可愛い自慢の「いい子」だった母が、東京からやって来た通信記者の父にたぶらかされた際は、

「この川原乞食がっ!」

と玄関先で怒鳴ったそうです。

今ではちやほやされるマスコミも、半世紀近く前にはやくざな商売で、不祥事続きですっかり信頼を失った教職は、だてに「先生」と呼ばれるわけではなく、知性と教養に優れた職業だったのだ、ということがよくわかるエピソードではないでしょうか(娘に悪い虫がついたときの父親はいつの世も変わらない、ということもわかりますが)。

職業に貴賎は無い、とはいえ、時代によってその評価は大きく変わります。その昔、インテリの不良が憧れた職業のひとつが小説家。その破天荒ぶりたるや、いまどきの草食系オサレ作家や、引きこもりオタク作家なんぞ、足元にも及びません。酒やドラッグ当たり前、借金は踏み倒せ、必要とあれば友でも妻でも売ってしまう、挙句に一人で死ねずに心中。まさに「人間失格」、社会不適合もいいところです。文学賞とって家屋敷やら高級車買うなんてださいことはせず、賞金で借金返すどころか飲み代にしちゃった、くらいの気概ある作家がいたのです。

そんな「昔の不良」の作品を、あえて今、親子で読んでみる、というのはいかがでしょう?

「おやじの昔語りなんて、これに比べたらちっちぇえー」

と、更に父親の威厳失墜に拍車をかけるリスクはありますが、もしかしたら、

「よかった・・・ふつうの家庭に生まれて・・・」

と、まっとうなご両親への敬意を新たにするかもしれません。

非常に残念ながら、私の時代から、「昔の不良」たちの作品は「文学史に出てくる名前」程度に落ちてしまい、教科書にのった瞬間から、魅力を半減されてしまっていますが、「勉強のため」ではなく、「昔の不良研究」と思って読んでみれば、また新しい発見と魅力を見つけることができるかもしれません。

学生時代、本と言ったら教科書とゲームの攻略本しか読んだことがない、という、実に嘆かわしい友人男子がおり、その男子がやたらに音を立てて食事をするのが気に障り、ある日、

「くっちゃくっちゃ音出して食ってるんじゃねえよ、このバカヤロウ!」

と一喝してびびらせてしまったことがありました。
私の形相がよほど凄まじかったのか、その後のシカト攻撃がきいたのか、友人はまさに平身低頭して謝ってきたので、私はすかさず、

「これを一冊ちゃんと読んだら許してあげる」

と、夏目漱石の「坊ちゃん」を渡しました。この機会を逃しては、奴に読書の楽しみ、日本文学の素晴らしさを教えることはできない、と考えたのです。

数日後、友人は目を輝かせ、

「だいちゃん!本って面白いよ!夏目漱石ってすげえよ!あんなにどきどきしたことないよ!」

と、「坊ちゃん」文庫本を握り締めながら延々と語り、その日から、古今東西の小説を読み漁り出し、なんと終いには私よりも先にアーヴィングの「ホテル・ニューハンプシャー」なんぞを読破して、生意気にも私に貸してくるようになりました。

それでは私おすすめの「不良本」とは?まずは前述の「坊ちゃん」。なんとか桜と違い、主人公はほんとにただのアウトロー、勢いだけで生きているやんちゃなぼんぼん先生、教え子への愛情も、教職への情熱もありません。風呂入って、飯食って、喧嘩売るだけ。なのに憎めない。上司の悪口言いまくりですが、見方を変えたら、普通に管理職として当たり前のことを言ってるだけなんです。
日常に鬱憤たまってるお父さん、ぜひ息子さんと読んで、語り合ってください。

まだ小学校高学年程度であれば、「パパ・ユーアクレイジー」はいかがでしょうか。
サローヤンが自身と息子のために書いた作品であり、故・伊丹十三さんの訳が素晴らしく、なんともいえない雰囲気がある名著です。
英語も簡単なので、中学生であれば、あえて英語で読んでみてもよいと思います。

フランス発元祖中二病作家・サガンの「悲しみよこんにちは」。
「私は人とは違うの」と言いたくなる、太陽系よりでかい自意識をもてあましているお嬢様をお持ちの親御さん、どうせならここまでの作品書いてから言いなさい、と、文庫本と一緒に渡してはいかがでしょうか。
サガンがこれを書いたのは18歳(実際に書いたのは17歳?)。ペンネームはプルーストから取りました、など、今でも、これだけの知的・精神的に成熟した少女作家がいるでしょうか?
ショッキングなことをこれでもか!と書き連ねているわけでも、昼ドラ真っ青の波乱万丈でも無いのに、どっしりと胸にのしかかる、このせつなさ、憂鬱・・・
個人的には朝吹さんの訳が好きなのですが、読みやすさでいうと、河野さんの方が現代的ですし、わかりやすいと思います。
また、シンプルにブルーだけの装丁が非常にスタイリッシュなので、お母様方は本屋のカバーなんぞかけず、おしゃれなカフェでお子さんと待ち合わせしながら読み、

「ママンも昔、サガンに憧れてね・・・最近はまたマリンルックがはやっているわね。ボーダーといえばジーン・セバーグだと思う人が多いけれど、ママンはBBだと思うの・・・」

なんて、いきなりパリのマダム風な演出で、お子さんを驚かしてもいいのではないでしょうか。
最近、repettoもはやってますし。

コクトー、ワイルド、ヘミングウェイ、宮沢賢治(不良ではありませんが、ある意味、養う家族にしてみれば不良よりタチが悪かった気がします)、芥川龍之介、北原白秋、志賀直哉、谷崎潤一郎、坂口安吾、三島由紀夫。酔ってばかりいる李白。洋の東西を問わず、作家・詩人は不良だったが故に、あれほどに時代を超えて魅力的な作品を残しているのだ、ということを、多感な思春期だからこそ、知ってほしいと思います。

また、親御さんも、受験のために読んだなあ、ではなく、人生経験を経てきた今だからこそ、その一言、この一節が心に響くのだ、という経験をしてみてはいかがでしょうか?

お気づきになった方もいらっしゃるでしょうが、私、太宰治はじめ、幾人かの作家の名前をあえて出していません。たんなる好き嫌いと言ってしまえば終わりですが、思春期に読んだからこそ、読めなくなってしまった作家たちなのです。そういう文学的トラウマをいかに克服するか、思春期入り口に立つ息子を眺めつつ、自問自答しております。

(文:平野だい)

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