物事を考えるときには目に見える表層だけを見ても分からない。
今は残念ながら不調であるが、それでも日本を代表する製造業であるトヨタ自動車は「なぜ?」を最低3回繰り返せ。と、教えているそうだ。
例)目に見える現象
・工作機械のフューズが切れた
フューズというのは、なんらかの故障などにより機械に電気が流れすぎてしまった時、機械を保護するために入っている小さい部品である。
電気が流れすぎてしまう場合、著しく加熱したりして修理不能なほどのダメージを負ってしまったり、ことによっては発火・火災を引き起こす。
それを防ぐため、フューズを通って電気は機械の内部に供給されるように機械は作られている。フューズには所定の電力の量が決まっていて、その電力を超えて電気が流れると、フューズ自体が焼き切れるようになっていて機械を守る。
フューズが切れた場合、交換すれば機械を動かすことができることがほとんどである。余談ではあるが、自分が小学生の頃、よくカラーテレビを粗大ごみの日に拾ったものだが、映らなかった場合であってもフューズだけ換えてやったら3台に1台ぐらいは直ったものだ。
さて、工作機械のフューズの話に戻ろう。
フューズが切れた。
何も考えずに、フューズを交換するという方法もある。それでも何の問題もない可能性も高い。
しかし、ここで1回目の「なぜ」を発する。
「なぜフューズは切れたのか?」
調べてみると、どうやら機械の中のモーターが異常に電力を消費していることが判明した。異常に大きな電流が流れてフューズが切れたのだった。
ここまで考えるのはまあ普通である。
フューズが切れた場合、原因を調査しないでフューズだけ交換したら、取り替えたばかりのフューズがすぐに切れてしまうことが多く、場合によってはより大きな故障につながるので調査をするのが常識である。
モーターを交換すればいいのか?しかし、それをせずに2回目の「なぜ」を発してみる。
「なぜモーターが異常に電力を消費したのか?」
調査してみると原因は、モーターの動きを滑らかにするための油が切れていたのだった。このモーターには油が常に供給されるようになっている。油はタンクの中に入っていて、このタンクが空になっていたからであった。油が切れてしまったため、回転に余計にエネルギーを消費したわけである。
さて、ほとんどの場合であれば、これが根本原因だと思って油を補給して、モーターを取り替えて終わりにするであろう。
しかし、そこで最後になる3回目の「なぜ」がくる。
「なぜ、油がなくなったのか?」
点検簿を見たところ、所定のタイミングで油はちゃんと補充されているという記録が残っていた。
調査によって、油をモーターまで導いているホースに亀裂が入っていて、そこから油が漏れていたということが最終的に判明した。
フューズが切れた真の原因、それはホースの亀裂による油漏れであったのである。
このように、たかだか工作機械の故障の場合なのだが、なぜを3回繰り返すことで初めて真の原因にたどり着けた。フューズを交換する、油を補充するといった安直な解決方法をとらず、真の原因を追究したことが解決に導いたわけだ。
やっと本題。
若年層の直面している雇用の問題は実に深刻だ。
日本という国にはセーフティネットがなく、特に非正規労働者の若者が失業した場合には、失業保険の給付がなく生活保護という最後の最後の保障しかない。また生活保護という制度も実際に正しく運用されていない。
たとえば北九州市などでは、生活保護の申請に来た人に対して理由をつけ、申請書面を渡さないという方法で事実上の門前払いをしていた。
実際にケースワーカーが状況を把握しており、生活保護を支給しなければ申請者が餓死するであろうことを容易に予見できる状況だった。それにもかかわらず生活保護を支給せず、餓死させたという事件はさすがに問題になったのだが、日本の生活保護の運用はかくもお粗末である。
若年の非正規労働者にとっては、失業した場合生活保護が唯一生活の砦であるが、身体が健康で十分就労に耐えられるということで、申請は門前払いにされる可能性が高い。
その場合はどうなるか?ネットカフェ難民と呼ばれる浮浪者への道しかこの国には残されていないというのが現状だ。
さて、現在の対策であるが、失業した非正規労働者に一時的な住居を確保する、生活保護の申請の手伝いをするとかそのようなことがおこなわれている。これ自体は必要なことで否定する気はない。しかし、それはまったく真の解決ではない。
機械の例でいえば、なぜを一度も発することなく、フューズを交換して当座をしのいでいるという対策に相当する。
「なぜ、失業してしまったのか?」
を、考える必要がある。それは機械の場合と違って様々な原因が考えられる。
1)派遣という、人の雇用に直接責任を負わせない制度があるから。
2)景気の悪化により各企業は利益を確保するために、人件費を削減しないとならないから。
3)ものが売れないために労働力が余剰になっているから。
といったようなことが考えられる。
今の政府の対策は、この3つにだけ向けられていると言ってよい。1)の対策としては、製造業への派遣を禁止することを検討する。2)・3)の対策としては景気を回復するために、減税、給付金、金利の引き下げ、円安への誘導のための市場介入。
しかし、国民はこの対策に対して不安感を持っているのは報道の伝えるところ。それは対策が表層にしか過ぎないからだ。言い換えれば、「なぜ?」への追求が足りないのだ。
全部について論考すると、いくら書いても足りなくなってしまうので1)に的を絞って考えてみよう。
「なぜ、派遣という制度が必要なのか?」
この問いへの答えなくして、派遣という制度をなくしてしまうと、更なる景気の悪化に突き進む危険がある。必要だったから派遣という制度はあったわけだ。
もともと派遣は、特別な技能を持つ職種にしか認められていなかった。それをほぼすべての職種に拡張した理由は二つある。
①人件費を安く抑えたいから。
②売り上げが多いときにあわせて人を雇っておくと、売り上げが減ったときに人が余って経営が苦しくなるから。
さて、今度は問題の核心に迫ってきたので、①・②の両方について考えてみたい。
①「なぜ、人件費を安く抑えたいのだろう?」
そんなの当たり前じゃないか!企業っていうものは利潤を追求するものなのだから!
って、いう言葉が聞こえてきそうだ。ごもっともである。それも答えの一つ。
でもそれだけが答えではない。
Ⅰ:人件費は少ないほうが企業にもたらされる利潤が多いから。
Ⅱ:日本人の人件費は発展途上国に比べて相対的に高く、普通に賃金を支払うと製品が高コストになってしまい、国際的な価格競争に敗れて企業として存続できなくなるから。
Ⅰ:についてだが、人件費を少なくするとなぜ利潤が多くなるのか?という問いにはまったく意味がないので、
「なぜ企業は利潤を求めなければならないのか?」
という問いに少しひねってみよう。
当たり前だ!という声が聞こえてきそうだが、これは当たり前ではない。企業が存続すること・成長することと、利潤を生み出すことは実はまったくイコールではない。
企業は黒字になると税金を払わなければならない。あえて黒字にしないで赤字にすれば「基本的には」税金は払わないでもいいのだ。なので、企業の成長に必要なものを借金して買い続けて赤字にしておければ、利潤はないけど企業は成長していける、非常に効率がいい。
それにもかかわらず、なぜ企業は利潤を生み出そうとするのか?
ⅰ:株主が利潤を求めるようになったから。
会社が利潤を生むことによって株主は配当という形で利潤を受け取る。それを求めるということ。
意外に思われるかもしれないが、今から10年ぐらい前までは日本の会社の株主は配当というものを求めてこなかった。それは企業双方が株式を持ち合っていたからである。A社とB社という二つの会社があったとして、A社の株はB社が100%保有している。B社の株はA社が100%保有していたとする。この場合において配当を出すことにまったく意味がない。
こんな極端なことは上場基準の問題などもあり、実際はできないのだが、日本の上場会社は伝統的に安定した企業同士で株を保有しあって、企業買収から会社を守ってきた。
ところが、日本の金融市場の閉鎖性をアメリカから非難されたことなどの影響や、バブルの崩壊による資金調達の必要により、株式の相互持合いは相当解消された。それに伴い、利潤を生む存在として株を保有する株主が増え、配当をおこなわなくてはならなくなったのである。
このような株主は短期的な利益を重視し、長期的なビジョン、たとえば人材育成にコストをかけるというようなことに理解を示しにくい。
会社は誰のもの?という問いに対して以前は、「社員みんなのもの」という意識が(悪く言えば村的社会とも言えるが)あった。この意識は破壊され、会社は株主のものというアメリカ的な価値観が支配するようになった。
ⅱ:外形標準課税制度が導入されたから
以前は、赤字企業にはまったく課税されないという制度であったが、この制度の導入により、企業は自らのおこなっている経済活動の規模に応じて納税しなくてはならなくなった。
赤字にすれば、納税しないで済む時代は終わったのである。
さてこのレベルにまで深掘りして、初めて対策が考えられるようになる。
株主配当を考えないで済む経営を推し進める。
バブル前のように株式の相互持合いを政府が推奨するのだ。株式持合いはもともと日本政府が推し進めた国策である。またその路線を復活するのである。
外形標準課税制度を廃止する。税収は減るかもしれないが、企業の需要はもっと増えると考えられるので、結果国家経済全体が押し上げられ、税収は減らないかもしれないし、逆に増えるかもしれない。
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