【プレジデント 2009/11/30号】ピーター・ブレグマン=文 ディプロマット=翻訳
きちんと成果を出しつつ、自分の仕事を丁寧に整理していた社員が、突然解雇されたのはなぜか。そこにはリーマンの倒産劇と意外な接点があった。
エース社員リサは、なぜ、解雇通知を受けたのか
リサ(仮名)は大手銀行の人事部で中位のポジションにおり、5年にわたって毎年、傑出した成果評価を受けていた。彼女はまじめで、仕事の期限をきちんと守り、上司としっかりコミュニケーションをとっていた。責任感が強く、病気や休暇で自分が休んだとしても、その間に出てくる問題や依頼にほかの社員が難なく対応できるよう、自分の仕事をきちんと整理していた。
ところが数カ月前、彼女は解雇された。
皮肉なことに、彼女は前述の「すばらしい労働習慣にかかわらず」解雇されたのではなく、逆に「すばらしい労働習慣のせいで」解雇されたのだ。
この点をもっとよく理解するために、時を1年ほど遡って金融危機の後、アメリカ政府がAIGを救済したときのことを考えてみよう。AIGは「潰すには大きすぎる」と、アメリカ政府は主張した。
「その余波はアメリカ経済のあらゆるところに及ぶだろう。世界中がその影響を受けるだろう。倒産させるという選択肢はありえない」。こういう理屈で、AIGを存続させるために何十億ドルもの公的資金が投入された。
それに対し、リーマン・ブラザーズが倒産の危機に瀕したとき、政府は、この銀行は潰せないほど大きいわけではなく、ほかに妙案もないのだから、倒産させるのが一番だと判断した。その結果、リーマンは倒産したが、その後、アメリカ経済は坂道を転げ落ちるように悪化した。政府の読みは外れたのだ。
リーマンショックと人員削減の共通点
政府の誤りは、リーマンをその規模だけで判断した点にあった。政府はリーマンが倒産したとしてもその影響は限られており、当のリーマン本体とほかの少数の企業に打撃を与えるだけだと思ったのだ。だが、この判断は間違っていた。問題は会社の規模ではなかったからだ。AIGもリーマンも大きすぎたのではない。「わかりにくすぎた」のだ。
とにかく、これらの企業のビジネスは複雑すぎたのである。リーダーやマネジャーを含めて誰一人、完全には理解していないような小さな取引が無数にあった。これらの企業は、巨大なビジネスを無数の小さな破片に切り刻んで、それを何百万人もの人にばらまいていたのだ。そして、その行方を正確に追跡するのは不可能だった。
その結果、いわゆる「ゴルディアスの結び目」が生まれた。伝説によると、古代フリュギアの王、ゴルディアスが、誰も解けないような複雑な結び目をつくったとされている。それはどこで始まり、どこで終わるのかもわからず、何百年もの間、誰も解けなかったという。
この話から得られる教訓は何か。会社と同じく、社員が解きにくい仕事をしていればいるほど、その社員を解雇するのは危険で、影響を予測しにくいということだ。裏を返せば、社員の仕事を解くこと、すなわちどのように仕事を進めており、その仕事は誰に影響を及ぼすのかを理解することが容易であればあるほど、その社員を解雇するのは安全だということになる。
ここでリサの話に戻る。私はリサの上司のサム(仮名)に、リサの解雇の理由を尋ねてみた。この件ではサムも面食らっていた。解雇の決定は組織のもっと上のレベルでなされたのだ。
サムはこう説明した。
「はっきり言って、リサは解雇しても安全な社員だったから解雇されたんだ。彼女がどんな仕事をしているか、誰と協力しているか、何に責任を負っているかを、われわれはよく知っていた。彼女の仕事はきちんと整理されていた。彼女を解雇したらどんな影響があるかを簡単に理解できたんだ。彼女より能力的に劣る社員、生産性が低い社員、出来の悪い社員もいるが、そうした連中を解雇できないのは、彼らがどんな仕事をしているのか、彼らを解雇したらどんな影響があるのかが完全にはわからないからだ」
つまり、リサは仕事のやり方が明確で、まじめで、きちんとしていたから解雇されたというわけだ。もっといい加減なほかの社員は、どのような仕事をしているのかがわかりにくく、解雇した場合のリスクが高かった。まさにAIGやリーマンの個人版であるが、そのため、職を失わずにすんだのだ。
乱世でも会社に居座れる2つの方法とは
解雇されるべきでない社員が解雇されると、当の社員も会社も含めてすべての関係者が打撃を受ける。この問題を解決するには2種類の方法がある。よい方法と悪い方法だが、まず、悪いほうを含め紹介しよう。社員の側が、今のような時代に自分の職を守りたいと思う場合には、次の2つの方法がある。(1)とにかく卓越した仕事をする。目標を効果的に達成すればするほど、解雇される危険性は少なくなる。会社はその生産性を評価するからだ。(2)とにかくわかりにくい仕事をする。目標をあいまいに達成すればするほど、会社はその社員を解雇しにくくなる。会社は不確実さを恐れるからだ。
2つ目の方法には、問題が2つある。1つは裏目に出る恐れがあることで、わかりにくさの度がすぎると解雇されることがある。自分で思っているほど優秀ではない場合はとくにその危険性が高い。2つ目は、この戦略は、当の社員個人には役立つかもしれないが、会社には打撃を与えるということ。そして、いずれはその社員個人にも打撃を与える可能性が強い。
現在のような経済の大混乱が生じた理由の一つは、企業のリーダーが社内で起きていることを理解していなかったためだ。
「ゴルディアスの結び目」をつくることが個人の雇用を守るのに役立つのに対し、それを解くことは企業が成長力を保ち続けるのに役立つ。それはまさに今日の産業界が直面している最大の課題であろう。
「ゴルディアスの結び目」を防ぐには
さて、今度はよい方法、誰にとっても役に立つ方法を紹介しよう。それは「ゴルディアスの結び目」になる社員を一人もつくらないことだ。リーダーやマネジャーは、謎を抱えていてはいけない。一人ひとりの社員がやっていることを、その結果だけでなく過程も把握する必要があるのである。
すべての社員に明確で、整理され、標準化された情報管理体系を持つ、引き継ぎプランを作成させるために、職務記述書を書こう(もしくは社員自身に書かせよう)。そしてとにかくコミュニケーションをとろう。
社員のすることをなにもかもコントロールせよと言っているのではない。それでは管理のゆきすぎになるだろう。ただ、社員が何をしているのかを把握してもらいたいのである。
解雇すべきでない社員を解雇したら、それは単に間違った決定であるだけでなく、不当な行為でもある。そして、それは少しの努力で防ぐことができる。
16世紀のユダヤの神秘主義者、イツハク・ルリアが語った美しい挿話がある。
ルリアによれば、神は世界創造に使うために、天上の光をいくつかの特別な器に入れた。だが、神の光は器に閉じ込めるには大きすぎたので、器は粉々に砕け、光の破片を世界中にまきちらした。その失われた光を集めることで世界の不完全な個所を埋めることが私たちの務めである。それは世代から世代へと受け継がれる仕事、決して終わることのない仕事なのだ。
私たちも、会社の不完全な個所を埋めるという複雑な仕事、何世代もかかるかもしれない仕事を進めるにあたって、光を入れるもっと頑丈な器をつくろう。そうすれば、たとえそれが粉々に砕けたとしても、少なくともより簡単に破片を集められるはずだ。
この記事の前半は事実の紹介であり、中盤は解説、締めくくりは理想論で終わっています。
実際に処世術として理解しておくべきなのは中盤までで、社会に出てある程度の規模と歴史のある(出来上がった)組織で働くならば、一見、合理的とは言えないような人事は至る所で行われており、染まっていない若い人ほど違和感を覚えることでしょう。
多くの親たちは子どもに対しては次のように教えているのではないでしょうか?
例1) 真面目に頑張っていれば見ていてくれる人がいて、いつか必ず報われる。
例2) いつも公正であること、人に迷惑をかけないことが人間として大事。そういう生き方をすることによって他者から正しい評価をされる。
例3) 日々努力をすることによって優れた成果を上げることが高い評価を得て、自分のポジションを確固たるものにする道である。
でも、こういう考え方が通用しない会社組織も少なからずあるという現実を社会に出る前の子どもたちには教えておいた方がいいと思います。心がきれいでまっすぐ育ったまじめなタイプほど実社会に出てから苦労します。社会人になれば人間としてとても尊敬できないような人たちとも付き合って(生存競争をして)行かなければなりません。人間としてこうあってほしい理想とは別に「バイ菌だらけの実社会で生き抜いていくための知恵」も伝授していくことは必要だと思います。
(ニュースセレクター:守護拓真)
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